バネ知識 あれこれ(バネの材料)

バネの材料

 バネに使われる代表的な線材料を紹介します。

ピアノ線

 ピアノ線材を用い、通常、パテンチング後伸線など冷間加工して仕上げられた鋼線です。ピアノ線はレシプロエンジンのバルブスプリングやブレーキスプリングなど、高い信頼性が求められる用途に使用されています。日本ではピアノ線という呼び方がされるが、欧米では Music Steel Wire あるいは Music Spring Wire などと呼ばれることが多いです。ピアノ線(JIS G 3522)には、A種、B種およびV種の3種類が
あり、記号はSWP-A、SWP-B、SWP-V。引張強さ、巻付け性、ねじり特性、曲げ性、線径およびその許容差、外観、きず、脱炭層、表面状態などが規格化されています。
 自動車、船舶、農機具などの各種エンジンの弁バネのように、特に繰り返し数の大きいばねには、ピアノ線の中でも弁バネ用のV種が使用
されます。ピアノ線A種、B種は自動車のクラッチバネ、ブレーキバネ等の重要部品や電気機器、電子部品、工作機械、建設機械等の
部品バネ、計量器バネ、運動器具その他の高級バネに使用されています。ピアノ線A種は許容最大応力も高く、繰り返し荷重に対する疲れ等に対しても好ましい特性を持っています。設計上どうしてもA種より高い引張強さへたり性を要するバネにはB種が適当であるが、厳しい
成形加工などで問題となるじん性面では、A種よりも若干劣るので注意が必要です。

ピアノ線耐へたり性

硬鋼線

 硬鋼線材を用い、通常、熱処理後伸線など冷間加工して仕上げられた鋼線です。ピアノ線の弟分に相当するもので、ピアノ線が最高品質を
目指しているのに対し、その下の汎用グレードの適用を考慮して作られています。硬鋼線(JIS G 3521)には、引張強さに応じてA種、B種、C種の3種類があり、記号はSW-A、SW-B、SW-C。引張強さ、巻付け性、ねじり特性、曲げ性、線径およびその許容差、外観が規格化されて
います。
 硬銅線はさまざまな産業で用いられているが、代表的な用途としては、安全ピンのバネ、スイッチ類のバネ、はかりのバネ、椅子やベッドのバネ、自転車のサドル、スプリングシャッタの卷上げ用バネ、玩具用バネなどがあげられます。バネではなく、線の状態で使用される硬鋼線
としては、架空送電線補強銅線、コントロールケーブルなどがあります。また、SW-Aは金網、フェンス、シート枠などにも使われています。

荷重-伸び

ステンレス鋼線

 ステンレス材を加工して仕上げられた銅線です。耐食性と耐熱性に優れています。ステンレス(Stainless) とはStain(さび)+ less(少ない)=錆びないという意味の造語です。本来、錆びる鋼を錆びにくくするため、ステンレス鋼ではCrを11%以上添加しています。ステンレス鋼を
金属組織から分類すると、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、析出硬化系、2相ステンレス鋼などがあり、JIS には36種類も規定されています。バネ用ステンレス鋼線(JIS G 4314)には、オーステナイト系4種類と析出硬化系の1種類が規定されています。
記号は SUS302-WPA、SUS302-WPB、SUS304-WPA、SUS304-WPB、SUS304-WPBS、SUS304-WPDS、SUS304N1-WPA、SUS304N1-WPB、SUS316-WPA、SUS631J1-WPC。SUS302、SUS304、SUS304N1、SUS316、がオーステナイト系、SUS631J1が
析出硬化系です。オーステナイト系バネ用ステンレス鋼線の強度区分にはA種とB種があります。
 オーステナイト系ステンレス鋼の代表であるSUS304としてはB種(SUS304-WPB)の使用頻度が高く(最も一般的な材料で)、A種はSUS316-WPAの場合が多いです。SUS304-WPBの適用分野は、耐食性の要求されるバネ、ピアノ線にめっきをすると高価格となってしまう
バネなどを中心に、家庭用電化製品、自動車関係、通信機器、精密機器(時計、はかりなど)、光学機器(カメラなど)、医療機器バネなど多岐にわたります。SUS302とSUS304はよく似た成分系であるが、SUS302はSUS304より炭素量がやや高くNiがやや少ないです。欧米ではSUS302の使用が多く、日本ではSUS304が一般的であるがバネ用としての性能には大差はありません。SUS316-WPAは、SUS304-WPBより耐食性に優れ、錆びにくいです。耐食性が重視される用途や磁性の少なさを要求される場合に使用されます。
 SUS631J1-WPC(析出硬化型バネ用ステンレス鋼線)は、熱処理後の強度及び弾性係数がオーステナイト系より高く、耐熱温度に優れ、
約350℃まで使用可能です。バネ特性は高いがコストも高いです。耐熱性に優れることから、自動車エンジン関係のバネやアンテナなどに使用されています。

ステンレス透磁率

オイルテンパー線

 線材を用い、伸線などの冷間加工後、連続的に真直ぐな状態で油焼入れ・焼戻しを施して仕上げられた鋼線です。オイルテンパー線の語源は英語のOil Tempered WireあるいはOil Tempered Steel Spring Wireです。全長にわたり特性が均一で、真直性が良いこと、降伏点
(0.2%耐力)および弾性限が高いこと、耐熱性、耐へたり性が優れており、6.0mm以上の線径の線についても高い強度の線が得られると
いった特長があります。オイルテンパー線は他の鋼線に比較して0.2%耐力および弾性限が大きく、多くがコイルバネとして用いられており、そのバネの用途に応じた複数種類のオイルテンパー線がつくられています。
 使用する材料によって、炭素鋼オイルテンパー線、クロムバナジウム鋼オイルテンパー線、シリコンクロム鋼オイルテンパー線、
シリコンマンガン鋼オイルテンパー線などがあります。JISでは弁バネ用と一般バネ用に大別しており、その中に鋼種別のオイルテンパー線が定められています。この分類以外にも、懸架バネ用オイルテンパー線、プレス型バネ用オイルテンパー線といった特殊な用途に応じた
オイルテンパー線の種類があります。オイルテンパー線は合金元素を添加できることが特長であるが、その多くはバネ鋼と同じ成分系である。近年では市場のニーズに応じてより高応力の設計に対応できるよう弁バネ用シリコンクロム鋼オイルテンパー線をベースに高炭素化、
バナジウム添加による結晶粒微細屯と高降伏点化、耐熱性の向上のためモリブデンを、じん性向上のためにニッケルを単独もしくは複合添加
した高強度弁バネ用オイルテンパー線が開発されています。これらの鋼種は耐熱性が高いため浸炭窒化処理を施して、より高強度設計の弁バネ等に適用されることが多いです。
 オイルテンパー線を用いるバネは冷間でバネ成形を行うので、ピアノ線、硬鋼線と同様、成形後のバネには残留応力が発生します。
したがってバネ成形後は強度が著しく低下しない範囲のなるべく高い温度で低温焼なましを行います。通常、炭素鋼系は300~400℃で
20~30分の条件が、低合金鋼系では300~450℃で20~30分の条件が選定されます。

オイルテンパー線

オイルテンパー線

銅及び銅合金線

 バネに使われる非鉄金属の材料としては、黄銅、リン青銅、洋白、ベリリウム銅といった銅合金材料が一般的です。銅合金は導電率が高い
ことが最大の特長で、導電性を求められるバネ材料としては他の追随を許しません。また、非磁性、耐食性などを必要とするものに限定される傾向も強いです。鉄鋼系材料と比べるとコストが高いという欠点があります。最近では電子機器、情報通信機器の発達に伴いリードフレームやコネクタの分野での用途が大きく拡大しており、これらの用途に要求される材料特性がバネ材料として要求されている特性と類似しています。
 銅合金材料は大別すると、黄銅、リン青銅及び洋白のように冷間加工で強度を得るものと、ベリリウム銅、チタン銅のように冷間加工と
析出硬化処理の組合せで強度を得る二つのタイプに分類されます。その中でもバネ用材料は、バネ限界値、耐疲れ性、耐へたり性などバネ特有の性能が求められます。バネ用銅合金としては、強度が高くかつ導電率も高いことが理想的です。しかし、強度と導電率は相反する特性で
あり、合金元素の添加あるいは加工強化など強度を高める方法はあるが、両立は原理的に難しいです。

銅合金

銅合金化学成分

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